遺言書はどんな場合に必要なの?

相続開始後、遺言書が無い場合は相続人全員で財産をどのように分けるのか決める「遺産分割協議」をして、「遺産分割協議書」を作成しなければなりません。

相続人全員の戸籍や印鑑証明書を集め実印の押印等が必要になります。銀行や不動産の手続きでもそれらの書類や相続人全員の押印、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍などが必要になります。

遺言書があればそれらの煩雑な手続きを非常に簡単にすることがでます。

◎よくある勘違い

「財産がないから遺言書は必要ない」

財産のない方が争いになっている。(遺産分割で揉めるのは遺産5000万円以下が75%)

財産あるなしに関係なく、相続開始後の手続きを簡単にする残された人への思いやりが遺言書。

「うちはみんな仲が良いから遺言書いらない」

今は仲が良いと思っていても、数年後は誰にも分からない。

その時は相続人の配偶者や場合によっては孫まで口を出してくる場合もある。

そもそも遺言書は争いを防ぐためだけではない。手続きを簡単にするもの。

◎遺言書が特に必要になる色々なパターン

<子どもがいない夫婦の場合>

遺言書が無い場合 ・・・・         

被相続人に兄弟姉妹や親がいる場合、配偶者に全財産を残せない。

兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪が配偶者と共に相続人となる。

財産がほとんど自宅不動産のみの場合、同居していた配偶者は困ってしまう。 

遺言書があれば・・・・遺言書で配偶者に全ての財産を相続させると記せば、配偶者に全ての財産を残せることができる。

<財産はほとんど自宅の不動産のみという場合>

遺言書が無い場合  ・・・・        

財産が自宅とわずかな預貯金のみという場合、揉めやすい。被相続人と同居していた人がいると、他の相続人と揉めやすい。不動産の共有は後々問題になる事が多いので危険。

遺言書があれば・・・・

遺言書で同居していた人が自宅を譲り受けれるように指定する。

<法定相続分とは異なる分け方をしたい場合(特定の子どもや親族に多く財産を残したいなど。)>

遺言書が無い場合    ・・・・      

基本は法定相続分に分けられる。遺産分割協議で全員の合意があればそれ以外でも大丈夫。しかし、遺産を前にすると仲の良い家族が変わってしまうという事も多い。

遺言書があれば・・・・

例えば障害を持つ子供・自分の事業を引き継ぐ子ども等に多く残したいなどの願いを叶える事ができる。

*仲の良い家族でも要注意。

相続があった時に相続人の中に認知症の人がいたら、遺産分割協議ができなくなります。そうなるとその相続人のために成年後見人が家庭裁判所より選任されます。成年後見人はその認知症の人の利益を一番に考えますので、法定相続分通りの分け方以外の柔軟な財産の分け方ができなくなってしまう恐れもあります。

<相続人が多い場合>

遺言書が無い場合 ・・・・         

相続手続きに時間がかかる。遺言書が無い場合は「遺産分割協議」をして「遺産分割協議書」を作らなければいけないが、相続人全員の戸籍や印鑑証明書などまず書類を集めるだけで一苦労。更に全員の合意を得て全員の実印が必要になる。手続きに非常に時間がかかる上、疎遠の人や遠くに住んでいる人がいる場合やりづらい。          

遺言書があれば・・・・

遺言書の中で「遺言執行者」を設定しておけば、金融機関の解約・名義変更手続きや預貯金の分配、不動産の相続登記などを単独で行える。

<内縁の妻・夫がいる(事実婚をしている)場合>

遺言書が無い場合・・・・          

内縁の妻・夫は、財産を受け取れない。何十年同居している等は一切関係ない。

遺言書があれば・・・・

内縁の妻・夫にも財産を残せる。しかし、「愛人に全財産を譲る」などの遺言書は公序良俗に反して無効になる場合もある。

<再婚した配偶者に連れ子がいる・前の配偶者との間に子どもがいる場合>

遺言書が無い場合  ・・・・        

配偶者の連れ子は養子縁組をしないと相続人になれない。どんなに疎遠になっていても前の配偶者との子どもは相続人になる。

遺言書があれば・・・・

遺言で再婚した相手の連れ子に財産を残すと記せば、その子に残せる。

前の配偶者との子など、他に子どもがいる場合は遺留分には注意配慮する。

<他にもこんな場合も遺言書があると特に有効です。>

☐相続人が一人もいない。

→遺言書がないと遺産は国にいく。

☐特定の親族に介護してもらっている。

→息子の妻などは、相続人にはなれない。財産を渡したい相続人以外の親族がいたら遺言書を書く。

☐多額の資金援助している特定の子どもがいる

→不公平感を解消するために、遺言書でうまく分配する。

☐自分が亡き後に飼っているペットが心配。

→遺言書で「負担付き遺贈」を記してペットの世話をお願いする。

(金〇〇万譲る代わりの負担として愛犬○○を大切に世話してください、など)

☐相続人同士の仲が悪い。

→遺言書がないと遺産分割協議で揉めて争続になってしまう可能性大。

☐相続人以外に財産を残したい人・団体がいる。

→遺言書が無いと、財産は残せない。

遺言書作成の9つのポイント

①法定相続人をきちんと調べる

法定相続人となる人を確実に調査・把握しましょう。

②相続財産をきちんと調べる

プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金・ローンなど)も確実に把握しておきましょう。借金の連帯保証人になっている場合も同様です。調べたら漏れ・抜けのないように一覧表にしておきます。

財産を特定できるよう明確にしておきましょう。例えば・・

・不動産は登記事項証明書の通りに明記する。

・金融資産は、金融機関名(銀行名や証券会社名)を明記する。

③具体的に誰に何を渡すか考える

④遺留分をなるべく侵害しないように気を付ける 

 *遺留分とは・・・遺言書があっても100%遺言者の思い通りにはできない場合があります。「遺留分」とは、遺言書があっても法  定相続人が最低限相続できる財産の割合です。遺言書を作る際には、遺留分についても考慮して作成しましょう。

特定の相続人が極端に不利にならないようにしましょう。

遺留分を侵害したり、極端に不利になる相続人がいる内容の遺言書はトラブルの元になります。

最悪、遺言書の無効等を訴えられたりする恐れも出てきます。

そこまでのケースではないにしても、相続人間の仲が悪くなってしまう場合もあります。

⑤もしもの事を考える

・過去に書いている遺言書が複数ないか?

以前に遺言書を書いている場合は、新しい日付の遺言書が有効とされますが、新しい遺言書に書いてない内容については、古い遺言書も有効なままです。

・遺言書に書いていない財産が見つかった場合はどうするのか?

遺言書の中に、「その他一切の財産」という文言を入れたり、「上記以外の財産が見つかった場合は」など入れる。

・財産を譲るとした人が先に亡くなっていた場合はどうするのか?

次に譲る人も記載しておきます。

⑥遺言執行者を指定する

遺言執行者とは、遺言の内容を実現させる人の事です。

遺言執行者が遺言書で指定されていれば、金融機関の解約手続きや不動産の名義変更も基本的には遺言執行者だけでできるので、手続きが非常にスムーズになります。

⑦付言で思いを伝える

「付言」とは、遺言書の最後に書く、残された方へのメッセージの部分です。ここに書かれた事に関しては、法的な効力は発生しません。ただ、遺言者の想いを伝える事は非常に大切です。なぜこのような分け方にしたのか、遺言者の気持ちや願いを伝える事で、残された人は納得したりトラブルを未然に防ぐ効果もあります。

⑧ルールに従って書く

自筆証書遺言の場合は、ルールに従って厳格に書く必要があります。「〇〇を〇〇に任せる」などの曖昧な表現も避けましょう。

⑨適切に保管する

公正証書遺言は公証役場に保管されるので安心です。自筆証書遺言の場合も、できる限り法務局保管制度を利用しましょう。

遺言書は、残すことも大切ですが目的ではありません。相続開始後に遺言の内容を実現しやすいこと・争いをさけてスムーズに相続手続きができることが何より大切です。また、いつでも書けるわけではありません。認知症などになってしまうと遺言書を残すことは難しくなってしまいます。元気なうちに遺言書を残しましょう!